筒井淳也『社会学 非サイエンス的な知の居場所』感想

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個人的に社会学に対して胡散臭い印象を持ちつつ、普段物事を考えるツールとして、社会学を出自とする諸概念がなんとなく刷り込まれている自覚はある。

実際に社会学ではどのようなプロセス*1により知識が作り出されているのか、また社会を対象にする学問ということで社会学に興味はあるので、ここから入門していけたらいいなという気持ちで本書を読んだ。

結論としては、なかなか微妙だなーという印象。

 

社会学の「非サイエンス」的な要素として

・理論構築プロセスにおいて演繹性が薄いこと
・理論と実証が明確に分かれていないこと
・理論体系が「緩く」、反証可能性が低かったり、解釈に恣意性が発生すること

等がまあまあ整理されて語られていた点は良かった。

 

また、「サイエンス」としての権威を持つ自然科学を参照しつつ、

・研究対象に斉一性が期待できるかどうかによって、統計的因果推論の手法としての適切性が変わること*2
・人文系の学問の中でも心理学*3や経済学は対象の斉一性をある程度想定しており、また自然科学の中でも気象や地球など斉一性を期待しにくい分野があり、そこでは因果性を考慮しない手法*4による研究が行われていること

とし、人文系-自然科学の対比の図式に対して、対象の斉一性の概念を導入し、解像度を上げていた点は分かりやすかった。

 

最後に、社会学の特性について

・対象から問題意識を受け取る志向の強い学問であり、よって対象をきめ細かく見る必要がある。細かい情報を捨象して集計する統計的手法はともするとそのような価値を損なってしまうこと
・人々(対象)のリアルはすでに社会的に構成された概念に立脚する。このことから、人々から受け取る問題意識について、時間・文化を通じた対象の斉一性を期待することは難しいこと

を説明し、そのため、社会学の方法論としては、対象から受け取る情報を損ないにくい質的手法が重要であることを主張していた。

 

一方で、質的手法を用いた社会学研究の意義については、成功事例はいくつか挙げられていたが、はっきり言ってどういう意義があるのか正面から答える記述はなかったように思う。「厚みのある記述」「意味的解釈」のような漠然とした言い方でごまかしているように感じた。

また、統計的手法を用いることが難しいにしても、(哲学を見ると)自然言語によってある程度論理的に整合性のある理論体系は構築可能なのであって、社会学がここまで「緩い」理論体系であることにより、どのような良さがあるかについてはあまり納得できる説明がなかったように思う。

加えて、自身の読解力の低さもあるが、文章の構成の仕方が明快でなく、なかなか読みづらかった。

 

最終的には、社会学を擁護するものの、「悪くはない」というような消極的な主張にとどまっている印象で、あまり社会学に魅力を感じなかった。あんまり読みこなせなかった自覚もあるので、落としている情報があった可能性は十分あるが...

本書では社会学の研究成果自体に深く触れてはいなかったので、そういうものに触れるとまた変わるのだろうか。

*1:研究手法や評価法、またそれらの手法の適切性など...

*2:コントロール変数が莫大となる

*3:自然科学っぽい分野も含むけど

*4:予測モデルによる天気予報が例示されていた